Non canceling 調律法3

Non canceling 調律法3

それでは調律師はどの様な手法でピアノの音から不適切な音を取り除いているのでしょうか?
そして、それは音楽にどれほど有害な物なのでしょうか?

ピアノの音は3つの弦で構成されたユニゾンで1音としています。3つの弦を左から1.2.3.と番号をつけます。仮に1の弦から不適切な「まるで音があっていない様な音」が出ていたとします。

2と3は普通に合わせればOKです。
問題は1と2を合わせる時、何か特別な事をしないと「音が合っているようには聞こえない」事です。

調律師がコントロール出来るのは、元々ピアノの音の中に無い第3の音「うなり」これを利用します。

うなりとは?中学校の物理の授業で習いますが2音間の音にわずかに合っていない為にズレがあった場合突如として出現する第3の音です。

これは音が完全に合っている場合、跡形も無く消滅しますがわずかにズレると再び現れます。つまりピアノのユニゾンで構成される音からうなりがわずかでも聞こえた場合、その調律はズレているという決定的な証拠になります。

今、例として説明しています1の弦から出ている不適切な音というのは、この「音がズレている時に出るうなり」とそっくりな音が自ら1弦で出している状態です。この不適切な音を消し去らないと「下手くそ!」といわれる事になります。

この不適切な音、1の弦から出ているうなりの様な偽物のうなりを本物のうなりを利用して消滅させます。

音は空気の振動からなる波です。うなりもまた波の1種です。音にまつわる波には「位相」というものがあります。それは物の裏表を表す様なもので波の裏表を表します。

音は疎密からなる波動です。密なタイミングをプラス、疎なタイミングをマイナスとして単純な音をグラフにすると、ちょうどアルファベットのSを横にした様なグラフ、サイン波のグラフが出来上がります。

位相とは、この波のグラフが始まる始まり方グラフの裏表を意味します。
始まりがプラスで次にマイナスそしてプラス・・
その様な波(音)があったとします。その順番に対して逆の始まり方の波
始まり方がマイナス次にプラス次にマイナス・・
となる波は逆位相の関係となります。

理論的にこの全く同じ波形の逆位相の波(音を)同時に鳴らしたら、お互いに片方がプラスの時にマイナス、片方がマイナスの時にプラスとお互いがお互いで打ち消し合い音が消滅します。

実は、この原理を応用して不適切な「まるでうなりの様な音のノイズ」を本物のうなり(偽物のうなりの逆位相のうなり)の音を使って消滅させているわけです。

Non canceling 調律法2

 

Non canceling 調律法2

それでは「音楽的に音が合う」とはどんな事なんでしょうか?
一つの例として

私はたまたまオーケストラでの演奏経験がありますが、ご存知の通りオーケストラは演奏の前にチューニングをします。
しかし、あれはほとんど儀式的な物であの時に合わせた音でその後演奏されるとは決して限りません。

音楽が激しく興奮すれば全体のピッチは上昇し、穏やかな静かな場面では再び下がる事があります。

そこで優秀な奏者であればあるほど絶対的な音高とか音感とかに従うのではなく「今自分が合わせるべき楽器」に臨機応変に「完璧に」合わせます。

それは基準的な音高より高くても低くても柔軟に追従します。「あなたが高いから私は合わせられない」とか言い訳をしているのはアマチア奏者の人ぐらいです。

音楽は演奏中、常に流れて進行していますので理想はどうかではなくて「今最善の事は何ができるか?」を常に考えています。

ベートーベンの交響曲中での木管アンサンブルが良く登場します。フルートとオーボエのユニゾンでメロディーラインを動く様な場面またそれにクラリネットとファゴットが加わる様な場面。

そこで完全に音が上手く合う事が出来ると実に不思議な感覚になります。今自分が合わせようとしている相手の音と自分の音が完全に同化して自分の音が聞こえなくなります。これは音が完全に共鳴して同化しているのだと思います。

そして何処から鳴っているのかわからない様な、楽器の周辺一帯の空間全部が全部が音で満たされる感覚に包まれます。そして音色も音が合う事で何の楽器が鳴っているのか分からない複数の楽器が一体化した音になります。それは作曲家が確信犯的にもともと用いた複数楽器によるミックストーンと言われるサウンドが出来上がります。

心の中での心がけ・・
音を美しく合わせるコツはこのような事があります。

合わせる相手の出している音程のツボ、芯をめがけて
自分の楽器の音程をコントロールして「当てる」
響きを同化させる
音量を揃えて同化させる
演奏している空間を響きで完全に満たす様なサウンドを心がける

この空間を響きで満たす感覚は優秀な声楽家の方の演奏を間近で聴くと大変意味が良く理解できると思います。彼らは自分の体が楽器であり空間と響きで同化させる事でいかに効率良く声を響かせるかを常に研究しています。

それに対して
調律師の音を合わせている時の心の中は??
(これは20代の調律師阿部の心中を描写しています)

消えろ消えろ
時間がない
頼むから消えろ
商品価値のある音に成ってくれ!
時間がない消えろ

と、こんな感じです。消えろと心の中で叫んでいるのは音が合わない事で発生する特有の音、その音が出ている限りピアニストに楽器を渡す事は出来ませんし仕事を終わる事が出来ません。

とこんな感じで全くもって非音楽的なおぞましい心中でピアノと格闘しているのが見て取れます。

私は上記の2つの音を合わせる過程の心理状態を体験し味わってみて調律師の時の音を合わせる行為は「何か間違っている」事に気がつきます。

ピアノの調律の合わせ方を一言で言うと
引き算的に音を作り上げています。
都合の悪い音を切り捨て消し去ろうとしています。

それに対して音楽の現場で行われる音を合わせるということは
足し算です。
1+1は2ではなく2.5か3になります。
それが本来的な音楽的音の合わせ方であると気がつきます。

その後、ピアノの調律の現場で行われいる事は何か間違っているという罪悪感に囚われ続ける事になります。

Non canceling 調律法1

Non canceling 調律法1

ここ数年の間、調律師の方からこんな言葉を聞いた事がありませんか?
伸びる調律
歌う調律
倍音が混じる調律
いずれも曖昧で技術的に何をしているのか謎ですが調律をしてもらった人の印象は明らかに独特の調律で良い結果が得られたと感じる方が多いようです。それぞれ工夫を凝らした「何か」がされているというわけです。
ちょっとここで「先進的な調律」とは何かを考える前に「なぜ現状の調律方ではダメなのか」について述べてみます。
これは調律師の道を志した人は必ず通る道ですが調律技術の基礎を学んで初めて仕事を始めた時、お客様のこんな言葉に脅えます。
「すみません、この音合ってないんじゃないですか??やり直してもらえますか?」
それは一通り調律をさせていただいてピアノを依頼者に引き渡し調律のチェックをしてもらう時に起こります。
このダメ出しに対して完全に満足のいただける様に出来なければ料金も支払っていただけませんし、最悪の場合、調律師を変える様に言われます。これは仕事として最も避けなければならない事です。
「音が合っていない」という事はただ単純に技術的に未熟な場合はちゃんとやれば良いだけの話ですが、そうでは無い場合もあります。実はそこが大変悩ましい問題です。
ピアノの音というものは1音を3本の弦で同時に発音していますから「合っていない」事はユニゾンの事を言っています。
非常に悩ましいのは3本の弦、それぞれ1本で鳴らしてみると、「いかにも合っていない音」を出している弦があるのです。
音が合っていないとは2本以上複数の音の間で起きる事ですが、ピアノの場合1本の弦で自ら「合っていない様な音を出す」弦が
存在します。
3本のユニゾンの中にその弦が1本あった場合、理論的には音を合わせても「合っていない様に聞こえる」ユニゾンが出来上がるわけです。それは容易に想像が出来るでしょう。
しかし、それをお客様に言ってみたところで「だだの下手くその言い訳」にしか聞こえないのです。ましてや前の調律師はきちんと合わせた既成事実があると「合っていない様に聞こえるユニゾン」はただの下手くそにしかならないわけです。
そして、それを直す事が出来なければ仕事を失う事になります。
不思議な事に多くの調律師はこの問題を乗り越えて「合っていない様な音を出す弦」が混在する3本のユニゾンを合わせると「完全に合っている様に聞こえる」様に合わせる事に成功しているのです。それはプロとして当然、アマチアで調律する人には完全にマネのできない一つの特殊技術であると思います。
「合っていない様な音を出す弦の音」を跡形もなく完全に合っている様に3弦のユニゾンを合わせる!それは一見神業の様でありすばらしいプロ調律師の技術ですが、お客様との関係での営業上必要に迫られて開発された技術ですが、必ずしも「音楽的な音」では無い音である事を知らなければなりません。
本来自然になっている音を「消し去って」いるわけですから何か良く無い事が起きているのが想像できると思います。
相殺、干渉、撲滅、フィルタリング、何かその様な類の技術で聞こえない様にしているはずです。それは当然の事ながら「楽器が鳴らない方向に行きます」
先進的な調律を志し実現している人は東京だけでも何人も現れていますがこの問題を解決し、それでいて「どう聞いても合っていない様には聞こえない」事をクリアしています。
それは具体的に何をどうやっているのでしょうか?

楽器のピッチについて2

17-18世紀ドイツのピッチ事情
常に芸術の発信地であったイタリアとフランスの両国の影響をうけて当時、文化的後進国だったドイツでは両国の影響を多分に受けていました。国内は多数の領邦国家で分断された集合体の様な形態をしていました。

イタリア、フランスの影響を受けていた事、そしてドイツ国内から新しいルター派が排出する新しい混合様式が現れ3つのピッチが存在していました。混合様式の生み出した純粋培養の音楽家を代表するひとりはJ.S.バッハなどでした。

第1にイタリアの影響を受けた地域の教会備え付けのオルガン
北イタリアのバイオリンと同じ466-450Hzのピッチでした。

第2にベルサイユと同じ低めのピッチ390-405Hz
フランスの影響を受けていた領主の元で使われていました。

第3に上記両者の中間のピッチ410-420Hzが現れ
1720年以降次第にヨーロッパ全土はこのピッチで標準化して行きます。
その理由は第3のピッチを提唱する音楽家が同時時代を牽引していた事によると思います。

この18世紀標準とされた現代よりも半音低いピッチは音の高さというよりも、そのピッチで楽器をチューニングする事による楽器の反応やアーテュキレーションが良しとされた事が主な理由とされています。バイオリンは当初460Hz付近で設計された物を全音下げてチューニングする事によって、当時音楽に求められていた大きな音で鳴る楽器ではなく弱音を美しくニアンス豊かに歌い上げる楽器に近づけたかっのでは無いかと思います。

もうちょっと、つづく・・

楽器のチューニングピッチについて1

新しい情報が思いもよらない方向からやってきました。ピアノの歴史を調べると音楽の歴史に登場するすが1700年付近なので、その時点からの情報はピアノ関係の書物に書いてあるのですが、それ以前はどうだったのか?あまり考えていませんでした。
それが、衝撃の事実が分かりました。

18世紀以前の音楽と楽器の状況を知るにはそれ以前から存在している楽器について解説された文献にあるかもしれない、と読んでみましたのが古楽フルート奏者の前田りり子氏の書かれたフルートの現代への変貌を解説した本が「フルートの肖像」というタイトルで出ておりますのでご興味のある方は是非!

鍵盤楽器をやる人の常識的な知識として18世紀の基準ピッチは415Hzと現代の440〜442Hzと比較して約半音低い音であったと知られています。約200年かけて音楽のチューニングピッチは半音上昇したとされています。その主な原因は人類の音楽を過去の演奏よりもより優れた演奏として残したいという欲望であったとされています。チューニングを多少高くすることは最も簡単なパワフルで響きの豊富な状態を作りだす手段でした。
近年では70年〜80年代にカールベーム。ヘルベルト・フォン・カラヤンがヨーロッパのメジャーオーケストラの規準ピッチを上昇さた事が有名です。

200年で半音上昇したということは・・
その200年前はさらに半音低かったのではないか?と考えていましたが1600年代は場所によりピッチに二分化して大変なことになっていました。

オペラやバイオリン族の発展の歴史が開花したイタリアでは基準ピッチはなんと高い地域では470Hzで場所により低い所で415Hzであったようです。この上下する量は現代のピッチ440Hzをからすると半音上から半音下まで様々であったと言うことになります。基本ハイピッチなイタリアでは18世紀初め一旦低くなりその後、再び上昇し出す傾向があったようです。ピアノの歴史はその低くなって上昇する部分から始まります。

事、絃楽器の名器が誕生した16〜17世紀、クレモナのピッチは466Hz付近だったとされています。これも現代のピッチよりも約半音高いピッチです。興味深いのは名器が誕生した時点での想定されていたピッチは想像以上に高いものであったと言うことです。
その後の楽器はその時期に作られた物をお手本とされます。

私は過去に作られ年々モダンに音楽が変化する中ピッチが上昇し遠い昔に作られて完成された絃楽器達には酷な事をしているなと常々考えていましたが、もともとハイピッチに設計された絃楽器は時代がハイピッチ化する事で本来の設計のピッチへむしろ近づいて行っているという事実を知りました。私が心配したりする必要は全くなかったのです。

一方、ベルサイユ宮殿を始めとす宮廷文化が開花したフランスではしっとりとした低めのピッチが好まれ390〜435Hzとこれまた低いピッチが基準とされていました。

これだけのピッチの差がありますと楽器の反応に明らかな違いが出てきます。ハイピッチなイタリアとローピッチなフランス。バロックの2大様式にはピッチにも明らかな違いが出ていたと言うことになります。

一方、当時、プロ奏者が演奏する楽器(奏法が難しい楽器、バイオリン族、金管楽器、オーボエ)はハイピッチ
アマチアが演奏する楽器(比較的奏法が簡単な楽器、フルート、リュート、ガンバ)はローピッチであったと言うくくりもあります。

つづく・・・

ピタゴラス学派について

ピアノの音律に使われている調律のシステムはモダンピアノが現在の形態に落ち着いた時から12平均律として定着していますが、時代をどんどんさかのぼって行くとキリスト様が生まれた日を通り越して紀元前580-500年ごろの話しになります。人類最古の音律を考案したのは、かのピタゴラスさんでした。

3平方の定理、ピタゴラスの定理でおなじみにあの方です。
ピタゴラス本人を初めとするピタゴラス学派は万物森羅万象は数字によって構成されていると考えていました。
様々な事が数字によって考察され、その音に関する分野が音律であったというわけです。
それが人類最古の音律ピタゴラス音律となりました。

ピタゴラスは弟子たちに話した事は決して外部で口外してはならないと厳しい掟としていました。
そして弟子たちが発見した事もピタゴラス自らが発見した事とされていました。
もはやピタゴラス学派はほとんど宗教団体と化していたとも言われています。

ピタゴラス学派はますます力を強め政治にも口出しするようになった為、焼き討ちにあったりと言った事件もありました。ピタゴラスさんは数学者としての才能と同時に政治的な能力にも長けた人物だったようです。

フォルテピアノ変貌の歴史1のイベントを行います。

以下の試弾会が行われますが、それに合わせて初めて18世紀のフォルテピアノを試弾する方の為に予備知識を持って臨んでいただきたい事からセミナーを実施します。内容は試弾されるデュルケンが時代的に登場するまでの歴史的な解説とどの様な事を理想として造られたピアノだったのか、どんな音楽家が弾いた楽器だったのか?それを知って試弾するのと何も知らずに試弾するのでは大きな違いが出てくると思います。お時間のある方は是非!

野川のライトアップ

昨日の夜は1年に1夜だけ行われるイベント調布野川の桜のライトアップイベントでした。
野川の桜は樹齢50年のこの地域では有名な桜の名所です。
私はこのイベント今年で2回目ですが、初めてこのライトアップされた景色を見た時は、あまりの美しさに言葉を失ってしまいました。もちろん、ここは昼間いっても美しい桜の名所です。

国立音楽大学の1号館が5月に取り壊されます。

先日、フェイスブックで親しくしていただいていた方が国立音大での学業のプログラムを終えられて卒業演奏会を開かれた際に久しぶりに母校に行ってきました。そこで聞きました事ですが大学のシンボル的な建造物。1号館が老朽化の為取り壊されるという事でした。時期は5月です。何回か時あるごとに母校に行ってみますと在学中と変わらない姿で校舎があり当時の事を思い出したり懐かしんだりしたものですが、それが取り壊され無くなってしまいます。もう一度建物を見ておきたい国立関係者の方は4月中に行かれます事をお勧め致します。

株式会社ベヒシュタイン・ジャパン・コンサートチューナー 阿部辰雄